一度始めたプロジェクトや取り組みを「もう少し様子を見よう」と続けてしまい、気づけば投じた時間や費用だけがふくらんでいた。そんな経験のあるマネージャーは少なくない。うまくいっていない取り組みを止める判断は、始める判断より難しい。本稿では、プロジェクトの継続・中止をあらかじめ決めた基準で判断し、先送りを防ぐための進め方を紹介する。
なぜこの業務から始めるべきか
一度動き出したプロジェクトは、関わった時間や労力が惜しくなり、中止の判断が遅れやすい。担当者本人も「自分の判断ミスと思われたくない」という心理から、状況が悪化していても報告を先延ばしにしがちだ。マネージャーが撤退基準を曖昧にしたまま走らせていると、限られた人員や予算が成果の出ない取り組みに使われ続け、他の重要な業務にしわ寄せがいく。始める前に「どうなったら止めるか」を決めておくことは、無駄な投資を防ぐだけでなく、担当者の心理的な負担を軽くすることにもつながる。
具体的な手順
①プロジェクトを開始する時点で、継続・中止を判断する具体的な指標(期限、達成すべき数値、投じられる予算の上限など)を決めておく。
②基準は担当者一人ではなく、マネージャーを含めた複数人で確認し、後から「言った言わない」にならないよう記録に残す。
③進捗確認の場では、良い報告だけでなく基準に届いていない項目も必ず取り上げるよう、あらかじめ議題に組み込んでおく。
④基準に届かなかった場合は、担当者の能力不足と捉えず、環境要因や前提条件の変化も含めて振り返る。
⑤中止と決めた際は、そこまでの取り組みで得られた学びを次のプロジェクトに引き継ぐ場を設け、失敗のまま終わらせない。
つまずきやすい点
撤退基準を決めたつもりでも、「様子を見て柔軟に判断する」といった曖昧な表現にとどまり、実際の判断材料にならないケースが多い。基準は誰が見ても同じ判断ができる具体的な数値や期限で設定する必要がある。また、中止を「失敗」として扱ってしまうと、担当者が悪い情報を隠すようになり、判断がさらに遅れる悪循環に陥る。中止は次に活かすための前向きな決定だという姿勢を、マネージャー自身が示すことが欠かせない。
効果・まとめ
撤退基準をあらかじめ共有しておくことで、状況が悪化した際にも感情に流されず、早い段階で軌道修正の判断ができるようになる。担当者にとっても、基準に沿った判断であれば個人の責任として抱え込む必要がなくなり、次の挑戦にも前向きに取り組みやすくなる。プロジェクトを始める段階から、終わらせ方まで設計しておくことが、限られた資源を活かすマネジメントにつながる。
実体験:現場で困った場面とやってみたこと
自分が困った場面
「撤退基準をチームで共有する―プロジェクトの中止判断を先送りしないマネジメント」というテーマについて、最初からうまく対応できていたわけではありません。実際にこの場面に直面したとき、何をどう伝えればよいのか分からず、対応に迷った経験があります。頭では分かっていても、いざその場になると言葉が出てこないことがよくありました。
実際に使った言葉
「あの、もし可能であれば、なんですが…できる範囲でいいので、少し考えていただけたらと…」
今振り返ると、要点がぼやけてしまい、相手に何を求めているのかが伝わりにくい言い方だったと思います。
うまくいかなかった対応
遠慮がちな伝え方を続けた結果、意図が正しく伝わらず、対応が後回しにされたり、認識のズレがそのまま残ってしまったりすることがありました。かといって、はっきり言おうとすると今度は言葉がきつくなりすぎてしまい、相手との距離ができてしまうこともありました。曖昧に伝えることと、きつく伝えすぎること、どちらも関係を難しくする原因になっていました。
次に変えたこと
「相手への配慮を示す言葉」と「伝えたい内容」を分けて話すように意識を変えました。まず相手の立場や状況をねぎらう一言を添えたうえで、伝えたいことは要点を絞ってはっきり伝える。この順番を意識するだけで、相手の受け止め方が明らかに変わりました。
現場で使えるチェックリスト
- ☐ 相手への配慮を示す言葉を先に一言添えたか
- ☐ 伝えたい内容を曖昧にせず、具体的に伝えられているか
- ☐ 期限や優先度をはっきり伝えたか
- ☐ 一方的な指示・命令口調になっていないか
- ☐ 相手の立場や事情を尊重する姿勢を示せているか
- ☐ 伝えたあとに、相手の反応を確認できているか
